日本女子大学・家政学部通信教育課程・食物学科
教職課程リポート

科目「食物学概論」

課題「熱量素について、そのはたらきを中心に説明しなさい」

評価「(合格) コメント→熱量素の代謝経路において、TCA回路に入るまでの過程を相互(3つの栄養素について)に関連づけてまとめておきましょう。同化と異化をわかりやすくまとめると良いと思います。図にあらわしたりすることによって理解が深まります。発生するエネルギー量(1gあたり)についての記述も欲しかったです」

参考文献「食物学概論の教科書、高校家庭科の教科書(東京書籍と実教出版の2種)」

 熱量素とは生命維持や生命活動のためのエネルギーを発生する栄養素であり「炭水化物、脂質、たんぱく質」のことである。
 各栄養素についての大まかな働きをあげると「炭水化物→エネルギー源」「脂質→エネルギー源、身体組織の構成」「たんぱく質→エネルギー源、身体組織の構成、生理機能の調整」ということになる。以下、各栄養素の働きの詳細を説明する。
(炭水化物には食物繊維も含まれるが、本課題の「熱量素」という意味合いからは外れると考えられるので、本稿では触れないこととする)

「炭水化物」
 炭水化物の中で重要なものは「ぶどう糖、果糖、ガラクトース(以上単糖類)」「麦芽糖、しょ糖、乳糖(以上二糖類)」「でん粉、グリコーゲン(以上多糖類)」などの糖質である。
「単糖類」とは糖質の最小単位であり、消化酵素によってこれ以上分解されないものである。「二糖類」とは単糖類が2分子結合したものであり「多糖類」とは単糖類が多数結合したものである。

 口腔から入ってきた糖質は「単糖類・二糖類・多糖類」の違いによって消化分解の過程が異なる。単糖類はそのまま小腸まで運ばれて吸収され、門脈を経由して肝臓へ運ばれるが、二糖類や多糖類は各種酵素の働きによって下記のように分解される。
・二糖類→そのまま小腸まで運ばれたあと、小腸粘膜上皮細胞に存在する消化酵素により下記のように分解され、門脈を経由して肝臓へ運ばれる。
 麦芽糖→マルターゼにより「ぶどう糖」に分解される。
 しょ糖→スクラーゼにより「ぶどう糖と果糖」に分解される。
 乳糖→ラクターゼにより「ぶどう糖とガラクトース」に分解される。
・多糖類(でん粉)→唾液アミラーゼによって若干分解される。そのあと小腸ですい臓アミラーゼにより「麦芽糖」に分解され、さらにマルターゼにより「ぶどう糖」に分解されて門脈を経由して肝臓へ運ばれる。
 したがって肝臓内に運ばれた時点での糖質は「ぶどう糖、果糖、ガラクトース」といった単糖類となっている。さらに肝臓内では果糖とガラクトースがぶどう糖に分解されるので、糖質は最終的にすべてぶどう糖に分解されることとなる。

 肝臓に取りこまれたぶどう糖の行方は次のいずれかに分かれる。
・グリコーゲンの合成に使用され、肝グリコーゲンとして蓄えられる。なお蓄えられた肝グリコーゲンは、必要に応じてぶどう糖に分解されて血液中に送られる。
・肝臓内でエネルギー源として利用される。
・そのまま血液中に送られる。

 さらに「血液中に送られたぶどう糖」は次のいずれかに分かれる。
・血液から筋肉へ取りこまれたぶどう糖は、エネルギー源として利用されるか、グリコーゲンの合成に使用され筋グリコーゲンとして蓄えられる。
・血液から他の組織へ取りこまれたぶどう糖はエネルギー源として利用される。また、余分なぶどう糖は脂肪に合成され貯蔵される。
 以上のように炭水化物は「エネルギー源」およびグリコーゲンや脂肪の合成による「エネルギーの貯蔵」という働きを担っている。なおエネルギーは「体温の維持」や「筋肉の運動(収縮)」などの生命活動の維持に使用される。

「脂質」
 口腔から入ってきた脂質は十二指腸において肝臓から分泌される胆汁と混和されたあと、すい液中のステアプシンという酵素によりグリセリンと脂肪酸に分解され小腸粘膜上皮細胞から吸収される。吸収後のグリセリンと脂肪酸の行方は次のいずれかに分かれる。

・リンパ管を通る経路
 脂肪酸とグリセリンから中性脂肪を再合成し、さらにコレステロールやリン脂質と結合してカイロミクロンを構成する。そのあとリンパ管に取りこまれ、最終的には血液中に送られて各組織に運ばれる。その際カイロミクロンは中性脂肪を輸送する働きをもつ。カイロミクロンは酵素の作用で徐々に小さく変化してゆき、やや小さくなったVLDLは肝臓や脂肪組織で再合成された中性脂肪を輸送する働きをもつ。次に小さくなったLDLは肝臓からコレステロールを輸送する働きをもつ。最も小さくなったHDLは各組織の不要・余分なコレステロールを肝臓へ回収する働きをもつ。

・門脈を経由して肝臓へ運ばれる経路
 脂肪酸とグリセリンのまま門脈を経由して肝臓へ運ばれる。脂肪酸は「細胞膜を合成する」「分解されてアセチルCoAを産生し、コレステロールの合成やエネルギー源となる」「余った脂肪酸は貯蔵脂肪となる」などに利用され、グリセリンはピルビン酸を経てアセチルCoAに変化しエネルギー源になる。

合成されたコレステロールは各組織へ送られ下記のように利用される。
・胆汁酸を合成する。
・副腎や生殖腺で性ホルモンを合成する。
・ビタミンDを合成する。
・細胞膜を合成する。
 以上のように脂質は「エネルギー源、身体組織の構成」という働きを担っている。

「たんぱく質」
 口腔から入ってきたたんぱく質は胃酸により変成され、ペプシンという酵素により荒く切断される。ついで小腸に至りトリプシンやキモトリプシンという酵素により細断される。さらに小腸粘膜上から分泌されるカルボキシペプチターゼ、アミノペプチターゼ、ジペプチターゼなどの酵素により1つ1つのアミノ酸に分解され、小腸の毛細血管から門脈を経由して肝臓に運ばれる。肝臓に取りこまれたアミノ酸の行方は次のいずれかに分かれる。
・アミノ酸から組織たんぱく質が合成され、肝臓内に貯蔵される。
・肝臓内でエネルギー源として利用される。
・そのまま血液中に送られる。
 さらに「血液中に送られたアミノ酸」は各組織に取りこまれ、次のいずれかに利用される。
・ 組織たんぱく質を合成する。
身体を構成する、毛、骨、筋肉、軟骨、皮膚、血液、細胞膜、染色体などになる。
・ 酵素を合成する。
 各種酵素はすべてたんぱく質で構成されている。糖質の分解酵素であるアミラーゼ・マルターゼ・スクラーゼ・ラクターゼ、たんぱく質の分解酵素であるペプシン・カルボキシペプチターゼ・アミノペプチターゼ・ジペプチターゼ、脂質の分解酵素であるリパーゼ、エネルギー産生に必要なカルボキシラーゼ・デヒドロゲナーゼなどが合成される。
・たんぱく質ホルモンを合成する。
 脳下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎、すい臓などでたんぱく質ホルモンが合成される。副腎で合成されるアドレナリン、すい臓で合成されるインスリンとグルカゴンは血液中のぶどう糖量を調整する働きがある。
・免疫抗体を合成する。
 免疫抗体機能を持つ血清中のグロブリンが合成される。
・エネルギー源として利用される。
 以上のようにたんぱく質は「エネルギー源、身体組織の構成、生理機能の調整」という働きを担っている。