日本女子大学・家政学部通信教育課程・食物学科
教職課程リポート

科目「衣造形学」

課題「衣服の立体化の技法にはどのようなものがあるか、代表的な技法を5種挙げ、その手法と効果について説明せよ」

評価「(合格) コメント→大変わかりやすく図示されています。ただ身体のどの部分にフィットさせるためか、衣服のどのような部分に用いるのかなども示した説明が欲しいです」

参考文献「衣造形学の教科書、高校家庭科の教科書(東京書籍と実教出版の2種)」

 本来平面である生地を、立体的な身体に合わせて衣服にするのに最も重要なことは、衣服を細かい部品(裁断された生地)の集合体ととらえ、それら個々の部品の形状やサイズで立体化を実現する「適確なパターン化」である。しかしながらそれのみではゴツゴツとしてしまい、身体に完全にフィットした衣服とならないことが多い。
 そこで各種の手法を用いて、より身体に合った形となるような技法が考えられた。代表的な衣服の立体化技法5種を挙げると「ダーツ」「いせ込み」「のばし」「ギャザー」「タック」である。以下各項目について説明する。なお資料として各技法の簡単な解説図も添付した。

1「ダーツ」
 平面である生地を身体に重ね、その曲線に合わせるように不要部分をつまんでやり、そのつまみ線で縫合すると容易に立体化が可能となる。これを「ダーツ」という。つまんだ部分の形が「投げ槍」に似ていることからこう呼ばれている。つまみは衣服の裏面にくるように折って縫合し、袋状になったつまみは、通常アイロンなどで平たく整えておかれる。
 つまみの量や縫合する線を工夫することにより、生地上に凹凸の立体効果が現れる。スーツのウエスト部分や女性用衣料の乳房下部などには、凹むような形でダーツを設けて絞りを与えていることが多い。また衣服の肩付近にダーツを設け、胸部の最長部分からの絞りを意図することもある。
 ただしこの技法を柄のある生地に使用すると、縫合部分で柄の不連続を生じるため見苦しくなりやすい。無地の生地や、不連続が目立ちにくい柄の生地を使用するか、着用時に目立たない部分に使用しなければならない。また厚手の生地の場合にはダーツ部分がぶ厚くなり、薄手の生地の場合にはつまみの形が透けることがあるので、それぞれ注意が必要である。

2「いせ込み」
 長短2枚の生地を縫合する際、長い方の生地の縫合部分の組織を密にして(縮めて)短い方に合わせ、長い方にふくらみを持たせる技法である。通常、ふくらみを作りたい方の生地を縫い縮め、アイロンで形状を安定させることによって行われる。
 長い方の生地は縫合部分だけが縮んでおり、それ以外は元のままであるので、縫合部分からふわりと広がるような形で立体化が可能となる。「ダーツ」の様に立体化のための縫合やつまみがないので、自然な立体化が可能となる。
 この技法は縫合部分を適確に縮めて安定化させる技術が難しく、未熟な場合には後述する「ギャザー」が生じることがあり見苦しくなる。

3「のばし」
「いせ込み」とは逆に、アイロンで生地を伸ばすことにより立体化する技法である。本来生地(繊維)はある程度伸び、また一度ついた伸びが固定される性質を持っている。長期間使用したズボンの膝や臀部、シャツの肘などに往々にして見られるものである。その性質を利用して立体アイロン台でアイロンを使用したり、プレス機などで念入りに立体形状を形作るものであり、緩やかな立体表現が可能となる。「いせ込み」と比較すると、「いせ込み」は縫合部分が縮められるだけであるが、「のばし」は生地のかなりの面積が伸ばされる。また「いせ込み」は長短2枚の生地によるものであるが、「のばし」は特に縫合する生地同士の長さに依存しない。
 この技法はアイロンによる強制的な伸ばしであるので、緩やかな立体化には向いているが、極端な立体化には限界がある。

4「ギャザー」
 生地の一端を縫い縮めて意図的に「しわ」を生じさせて立体化をはかる技法である。生地の一端を糸で縫ったあと、その糸を引き抜くような力を加えると「しわ」が生じて縮むことにより生地が立体化するが、その現象を利用したものである。またゴムやひもなどを用いて締めつけ、生地自体に加工を加えることなく「しわ」を生じさせることもある。デザイン上「しわ」をアクセントとして利用したい場合に有効である。また「いせ込み」のような形状安定のための作業が不要であるので簡便である。
「ギャザー」は「いせ込み」と同様に生地の縫合部分だけが縮んでおり、それ以外は元のままであるので、縫合部分からふわりと広がるような形で立体化が可能となる。また「ダーツ」の様に立体化のための縫合やつまみがないので、自然な立体化が可能となる。
 ただし縫い縮める際に生じる「しわ」が均一に表現されないと、見苦しいものとなる。また「しわ」がデザイン上望まれない場合には利用できない。

5「タック」
 生地の一部をZ形に折り畳み、その部分だけを縫合した立体化の技法である。単に折り畳んで縫合するだけなので、高度な技術を必要とせずに立体化が可能である。折り畳むことによりひだが生じ、そのラインがある程度の長さまで保持されたあと自然に消えることが多く、デザイン上のアクセントとして利用されことも多い。また折り畳み部分を再調整することにより、サイズ適合の幅を広げることもある程度可能である。折り畳むという意味では「ダーツ」に似ているが、縫合が一部だけなのでゆとり量が大きい。
 ただし技法の性質上、折った部分の縫合が衣服や生地の端部分にしか施せないので、全面にわたっての立体化には向かない。
 また厚手の生地の場合、折った部分の縫合が難しくなる。さらに立体化の効果が大味なものとなるため、微妙なラインの表現には向かないなどの欠点もある。